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イスラム首長国の建設課題

アフガニスタン・イスラム首長国(タリバン)が発行する機関誌「スムード」192号は、「イスラム首長国建設のための戦い」と題するMustafa Hamid(Abu al-Walid al-Misri)による論考を掲載し、タリバンが国家の統治者として、直ちに、取り組むべき課題とその方向性につき包括的に示した。

同論考の著者のMustafa Hamid(アレキサンドリア出身のエジプト人)は、元々アフガン・アラブのムジャヒディンであり、第一次タリバン政権下ではジャララバード近くのアルカイダ・キャンプで爆発物の取り扱いを指導した経歴を有するアルカイダ系の著名なイデオローグとして知られている。2009年に米国務省は、同人をイランに滞在するテロ支援者(アルカイダ関係者)としてSpecially Designated Nationals(SDN)に指定し、経済制裁の対象にしている。

アルカイダ側としてイラン革命防衛隊(IRGC)との連絡役を務めたとされる同人は、機関誌「スムード」にハッカーニー・ネットワークの創設者とされる故ジャラールディン・ハッカーニーの伝記を執筆するほかMafa Worldという自身のHPをイランから運営し、機関誌「スムード」のHP上での掲載に加え、自身の論考を精力的に発表している。こうしたことからもイランとアルカイダ、アルカイダとタリバンの関係が示唆される。

本来、政権に復権したタリバンの機関誌で発表される国家建設の方向性は、アルカイダのメンバーとされる外国人ではなく、アフガニスタン人のタリバン運動の指導者やウラマーが示すべきところだろう。しかしながら、同論考は、タリバンがどのような方向性で新生アフガニスタン・イスラム首長国の建設を考えているのかを示しており、大変興味深い。主要ポイントのみ下記に引用する。

特徴的なのは、軍の構成、アヘン経済、地域共通通貨構想、ウラン濃縮や原子力発電の導入であろう。

地域共通通貨では、米ドルとユーロに依存しない金融・経済体制の構築を目指し「近隣諸国との交易は、現地通貨建て、もしくは、現地通貨にリンクする地域共通通貨を利用する」、としており、「米ドル基軸体制に依存しない制度がアジアに広がり、中国、インド、ロシア、イランが参加すれば、新たな体制が出現する」と実現に向けた見通しを示している。

ウラン濃縮では、まず、隣国との協力による海水の淡水化として、「トルクメニスタンとのカスピ海、もしくは、原子力利用による淡水化が可能なイランとのペルシャ湾での協力」の二択をあげている。その上で、イランとの協力による淡水化の場合、アフガニスタンは、「国内でのウラン濃縮によって原子力利用による海水淡水化プロジェクトの重要なパートナーになる」とし、イランに対して核燃料供給の役割を果たすことで対等な立場(パートナー)になる意義を強調している。こうして淡水化プロジェクトのために生産される「濃縮ウランは、アフガニスタン国内で原子炉を稼働させる際の核燃料と資金の確保に繋がる」と展望を示した。最後に、「石炭及びディーゼル発電に代わるクリーンな原子力発電の実現とは、イスラム首長国が、原子力発電の生産国・消費国クラブに加わることを意味する」と結び、5の(3)エネルギー経済では、国内の暖房需要や発電のため石炭利用の推進を掲げている一方、クリーンさをアピールし、原子力発電導入の意義を示した。

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イスラム首長国建設への戦いは、5分野の構成。

1.内なる戦い、2.外部との闘い、3.ジハード軍建設の戦い、4.国家基盤構築の戦い、5.経済の戦い。

1.内なる戦いは、3項目構成。

(1)   宗派・民族間における紛争のリスク

(2)   ダーイシュ(IS)のリスク

(3)   国際的な破壊組織(米国秘密組織):アフガニスタンに駐留していた米国とイスラエルの情報機関によって高度に訓練・編成された軍事・情報組織。同組織は、アルジェリアの独立を阻止するためにフランスが設置した秘密軍事組織(Organisation de l’armée secrète:OSA)がモデル。ムジャヒディンは、米軍から押収したコンピューターや捕虜の尋問などから邪な企てを把握しており、これまでのところ、同組織の影響を抑えることに成功している。未だ、数千の要員が地下に潜伏しており、シルクロード構想プロジェクトへの攻撃、イスラム首長国のインフラへの攻撃や影響力のある指導部の暗殺を目的としている。

2.外部との闘いは、2項目構成。

(1)   国境紛争

(2)   北の国境を接する国々との問題、特にアムダリア川を巡るタジキスタンとの緊張状態

3.ジハード軍建設の戦いは、4項目構成。

(1)   ハイレベルな特殊部隊及び防空部隊で構成される常備軍部隊の設置

(2)   国境侵犯からそれぞれの居住地域を守る部族部隊、状況に応じて、無反動砲や戦車を配備し、砲撃機能を付与

(3)   全土を複数方面に分割し、各方面で独立して行動する方面部隊の設置。

(4)   エリート部隊である衝撃旅団:ヘリで移動する空挺部隊を有し、肩で担ぐタイプの対空・対戦車用携帯型ミサイルを装備。同旅団を指揮する参謀本部メンバーは、軍、軍情報部、情報機関、警察、内務治安機関から選抜される。衝撃旅団参謀本部を指揮するのは、最も優秀なジハード戦士であり、アミール・アル=ムウミニン(信徒たちの長)から直接指示を受ける。同参謀長を防衛相、治安相と情報機関の長が補佐。

4.国家基盤の構築の戦いは、4項目構成。

(1)   宗教的アイデンティティを定着させる教育:米占領下の教育プログラムの排除、全生徒への宗教教育の義務付け、国外留学による先進科学の取得は不可欠だが、シャリーア(イスラム法)を学んだ生徒に限定(西洋思想の流入の防止)。

(2)   宗教・文化的アイデンティティを守る情報戦

(3)   社会生活に不可欠な食糧、医療、住まい、雇用、教育、治安の確保

(4) イスラム首長国統治機構の構成

アミール・アル=ムウミニン:最も強い権限を有する国家の最高権力者、最高シューラー評議会:アミール・アル=ムウミニン選出機関(1994年カンダハル会合で設立)、閣僚評議会:国の最高の行政機関、シューラー指導部評議会:国家と統治課題における諮問機関。

5.経済の戦いは、5項目構成。

(1)レアメタル経済:リチウムの埋蔵量は、世界から孤立した貧しいアフガニスタンを強国に変える。

(2)鉱業・鉱物資源の戦略的活用:銅、鉄、石炭、ウラン鉱石、宝石鉱山、金が豊富。原材料輸出から、製品として輸出へ転換(原材料加工による付加価値付与及び地元産業の育成。)ウランの濃縮や医療・農業分野における放射性同位元素(RI)の利用による経済成長。濃縮ウランの用途は、原子炉稼働。

(3)エネルギー経済:発電、暖房、蒸気機関車用途での石炭資源の活用。ダム発電を停止し、水不足問題の解決を図る。石油・ガスの探鉱、開発と輸送網整備の推進。石油ガス産業を担う人材育成・専門大学の設置。中国―インド間、中央アジア諸国からインド市場、中国市場、世界市場に向けてアフガニスタンを経由するエネルギー資源に対する技術的・行政的な監視の導入。

(4) 環境経済:風力、太陽光などのクリーンな発電の導入と農業との連携。イスラム建築の保持、4階を超える建築物の禁止、森林の育成、木材の製紙・家具産業への活用、松材の輸出、メディカルハーブ産業の育成、狩猟・畜産の適正管理。

(5)農業経済:基礎的食料の自給を目指す。「共に植えて、共に食べる」をスローガンに、近隣国との共同農業プロジェクトの実施。農学部の設置、放牧地の管理と(ジハードへの貢献も含め)社会において重要な位置を占める遊牧民への移動型行政サービスの提供。

アヘン経済:ケシ栽培の管理・支配は、世界的なアヘン問題をアフガニスタンが支配するための一歩。農業省が唯一の所管官庁としてアヘン産業を一元管理。農業省が国内ケシ生産者から買い上げ、外国製薬企業からの購入量を受付。外国企業とはハード・カレンシーで取引し、企業は、注文が承認された時点で、売買価格の三分の一を農業省に前払い。ケシ栽培地の許可制度と違反者への措置(違反対象地の接収と罰則)の導入。アヘン原材料の輸出から麻酔剤の国内製造・輸出への転換。

その他主要な政策

地域共通通貨の導入:米ドルとユーロに依存しない体制を構築するため地域共通通貨の創設。

海水淡水化:隣国(トルクメニスタンかイラン)との協力による海水の淡水化による干ばつ・水不足対策。

ウラン濃縮と原子力発電:ウラン濃縮で(原子力を利用する)淡水化プロジェクトのパートナーになりつつ、将来のアフガニスタンでの原子炉稼働の際の核燃料用。

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