昨年10月に出版された「タリバン復権の真実」(著者:中田考)の後半には、タリバンのアラビア語機関誌「スムード」に掲載されていた論文「タリバンの思想の基礎」の翻訳が掲載されている。同論文の執筆者はアフガニスタン人だと説明されている。しかしながら、この論文は、アルカイダのシリア支部である「ヌスラ戦線」から分派した「タハリール・アル・シャーム機構(HTS)」の幹部であるイラク人による執筆の可能性がある。
「タリバンの思想を基礎」の執筆者がアルカイダ系のイラク人ジハード主義者であった場合それをどう理解すべきか。タリバンの機関誌「スムード」などに示される論調や執筆者からタリバンとアルカイダの思想的な関係についてレビューした調査レポート第一号を添付する。グローバルリサーチ&リスクマネージメント調査レポート(202201ターリバーン統治の行方)

論文「タリバンの思想の基礎」は、アブドルワッハーブ・アル=カーブーリ(カーブール出身を意味する)名であることから「アフガニスタン人による執筆」である、と中田考氏は説明している。しかしながら、同論文は、
①タリバンの思想を評価する際に、三人称(彼ら=タリバン)が用いられている。②冒頭、「タリバン運動の実態、歴史的事件や事態の推移に直面してタリバンが採った対応から我々が演繹したところの、その(タリバンの)思想の基本原則」と断り書きがある。③他称である「タリバン」との文言が頻発している。(「スムード」中に「タリバン」の呼称は登場するが、その場合、アラブ人執筆者による寄稿の場合が多い。)こうした点から、アフガニスタン人のタリバンのメンバーが、当事者として、自分たちの思想の基本的原則を示した論文としては、不自然な点が多い。
本来、「思想」が先にあって「思想」に基づいて行動する。行動から「思想」を演繹するのは外部の人間が行うものである。そこで、同論文の執筆者を調べたところ執筆者は、アルカイダのシリア支部であるヌスラ戦線から分派した「タハリール・アル=シャーム機構(HTS)」幹部であるイラク人アブーマリヤ・アル=カハターニ(Abu Mariya al-Qahtani)の名で知られるマイサル・アリ・ムーサ・アブダッラー・アル=ジュブリ(Maysar Ali Musa Abdallah al-Juburi)である可能性が判明した。アブーマリヤ・アル=カハターニの信奉者が開設していると思われるHPに、アブーマリア・アル=カハターニ名による複数の論文が掲載されている。その中に、「タリバンの思想の基礎」が含まれていた。なお、同人は、米国務省によりSpecially Designated Nationals(SDN)に指定されている。
なお、上記の論文は、「アラブ調査室」の活動実績(2022年4月号)に掲載されている。同論文へのコメントはこちらから。