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タリバン司法大臣・最高裁長官が執筆した「イスラム首長国とその制度」

タリバンは長年、①外国軍の駆逐と②イスラーム的統治の実現を掲げて戦ってきた。2021年8月のアフガニスタンからの外国軍の撤退により①は達成させれたので、残りはイスラーム的統治の実現である。タリバン復権後、憲法や統治法を定めるよう動きはなく、タリバンがどのようにアフガニスタンを統治するか不透明な状況にある。そうした中、2022年4月、アブドゥルハキーム・ハッカーニ法務大臣執筆による書籍「イスラム首長国とその制度(الإمارة الإسلامية ونظامها)」が発行された。

アブドゥルハキーム・ハッカーニ法務大臣は、タリバン創設者ムッラー・ムハンマド・オマル初代最高指導者の側近であり、同書によるとムッラー・オマルの直々の要請でカンダハルのタリバン中央ジハード学校で教鞭をとった。

イスラム首長国名のツイッターは、アブドゥルハキーム・ハッカーニ法務大臣をカーディー・アル=クダー(最高裁長官)と紹介している。タリバンの統治では、司法大臣職が最高裁長官を兼ねるのか、たまたまアブドゥルハキーム・ハッカーニが両方に就任しているか不明であるが、最高裁長官職の前任はハイバトゥッラー・アーフンドザーダ現最高指導者である。2016年に前最高指導者マンスールの殺害に伴って3代目最高指導者を選出する際、アブドゥルハキーム・ハッカーニがアーフンドザーダを推薦した一人である。そして、アーフンドザーダ師が3代目最高指導者に就任した際に同師がアブドゥルハキーム・ハッカーニを自身が務めていた最高裁長官の後任に指名した。そして最高指導者は、昨年10月にアブドゥルハキーム・ハッカーニを司法大臣代行に選んだことから、互いに信頼しあっていることが分かる。

その証左に同書の冒頭では、ハイバトゥッラー・アーフンドザーダ最高指導者が署名入りで挨拶文を寄稿しており、アーフンドザーダが同書の内容を支持し、さらに同師が日々諮問しているウラマーたちの意見も聞いたところ、ウラマー達も同内容を支持したとのこと。

タリバンの指導者評議会は20名の構成とされるが、アブゥルハキーム・ハッカーニはその一人である。同人は現最高指導者よりも若くないが経歴やポジション的に、現最高指導者に不測の事態があった際には次期最高指導者に就任しても不思議ではない人物といえる。すなわち、創設者の側近であり、上級幹部の一人であり、司法大臣であり、最高裁判所長官であり、現最高指導者の信頼厚い同人が執筆し、現最高指導者と現最高指導者が諮問するウラマーが支持する内容は「タリバン統治の指針」になることは間違いない。

その観点から同書に目をとおしたところ、主要なテーマの概要は以下のとおり。なお、同書籍は全157頁あるが、肝心のシューラー(諮問)メンバーの選出方法は示さずメンバーの資格と資質を記述するにとどめ、イスラームの歴史上の3代目カリフのオマルがイブン・アッバースを側近(諮問相手)に選んだ過去の例から、諮問し答申を受ける人(最高指導者)がシューラーのメンバーを選ぶ権利があるとしている。また最高指導者の選出方法も正統カリフ時代の選出4事例を合法と見なすと述べるにとどめる他、一般原則、目的と役割、指導者層などに必要となる資格・資質や用語の説明の文章量が多い。その一方、「女子教育と女性の就業の制限」「民主的な選挙の否定」については下記にあるように具体的であった。

女子教育は男女別などの環境が整備されればタリバン政権下でも再開されると期待されていたが、教育環境だけでなく学ぶことが可能な教育科目自体に制限が設けられる、また、女性の就業についても非管理職限定、かつ、その職場で女性の労働力が必要な場合との条件つきである。イスラーム諸国の女子教育や就業の現状と比較するとイスラームの解釈としては偏狭に見えるが、これがタリバンの法務大臣のイスラーム解釈である。同書籍の発行のタイミングが4月であることを考えると、3月に女子中・高学校の再開が予定されていた当日に延期が決まったのは女子教育制限の原則との整合性がタリバン内で問われた可能性もある。

タリバンは外国の制度や思想の導入は絶対に認めないので、制限のない女子教育の実現を求める場合、より開けたイスラームの解釈で議論するのか、それとも天性に基づく職場やその為に必要な教育科目とは何かの個別の議論が考えられる。しかしながら、タリバンはこの解釈(女子教育と就業の制限)に自信があり、正しいあり方だと信じている。自信があるからこそ、タリバンはパシュトーン語やダリ語ではなくアラビア語で同書を発行した。自信の表れは、アーフンドザーダ最高指導者が冒頭挨拶の最後に、「同書が世界の全てのイスラーム教徒にとって有益となるようアッラーに祈る」と結んでいることからもはっきりと分かる。

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〇ジハードの目的

イスラムの道を確立する手段はアッラーとイスラムの敵に対するジハード以外にはない。ジハードは審判の日が到来するまで続く。コーラン第8章39・40節は、「教えが全てアッラーのものになるまで戦え」と規定している。ジハードの本来の目的とはアッラーの統治を現世で実現することである。米軍が撤退したからといってイスラム首長国(タリバン)のムジャーヒド(聖戦士)がジハードを放棄することは許されない。なぜならアフガニスタンでのジハードの目的はこの地においてアッラーの法を確立するためだからだ。アッラーの法の確立はアフガニスタンにおけるイスラム国家の実現を意味し、国家の運営には制度と制度を運営する指導者が必要となる。

〇統治

世界の国々の統治は2種類に分類される。1つ目は歳入や税金の徴収をスローガンとする政府・国。2つ目は導き(勧善懲悪)をスローガンとする政府・国である。既存の大多数の国々は1つ目に分類されるため例示説明の必要はない。2つ目の「導きの政府・国」が存在するのは稀である。「導きの政府・国」における3つ柱は①独立した司法、②イスラムの軍隊、③天啓の法である。人定法はアッラー及びアッラーの使徒が示したムスリムの道から外れるため拒絶される。「導きの政府・国家」を実現するイスラム統治は6要素で構成される。①国家元首、②能力主義だけに基づき登用する国家機関、③シャリーアが示す原則から導き出した市民法、④独立した司法機関、⑤強力な軍隊、⑥勧善懲悪委を担う人々。イスラム統治における法源は次のとおり。①コーラン②スンナ(預言者ムハンマドの言動)③イジュマー(合意)、④キヤース(類推)他6つの法源。

〇宗派

アフガニスタンにおける司法は、スンニ派ハナフィー派法学の解釈のみに依拠し、ハナフィー法学派の解釈・見解を採用する。大多数のアフガニスタン人は昔からハナフィー法学派に属し、ハナフィー法学派の解説に慣れ親しんでいる。また、ハナフィー法学派は昔から世界的に知られており、著名なイスラム法学者の多数派はハナフィー法学派であった。なお、アフガニスタンでは少数派を対象とした司法上の特権を認めることはしない。オスマン帝国は少数派の学派を認め、少数派の特権や外国人を対象とした外国の司法制度を認める司法のダブルスタンダードを導入したことによって司法制度が弱体化した。

〇伝統と習慣、独立

シャリーアに反しない限りフガニスタンの伝統、慣習、言語は尊重される。一方、米国などの外国に由来する文化はアフガニスタンの伝統とは関係ない。それ以上に、外来の文化はシャリーアとアフガニスタンの伝統に反しているので、それらは排除しなければならない。また、イスラム国家は法、政策、制度において独立しており、外国人が(伝統と習慣を含む)アフガニスタンの内政に干渉することは許さない。米はのりを超えて不正を押し付けてきたためアフガニスタン人はジハードを宣言した。

〇自由

言論の自由とは、「公に真実を語る」と定義される。イスラムではムスリムの指導者は真実を述べること(言論の自由)を奨励し、それに耳を傾けるべきとされている。2代目カリフであるオマル・ブン・ハッターブは、人前で己の発言を誤っている述べた女性が現れた際自身の発言の過ちを認めた例がある。ただし、言論の自由は他宗教へいざなうことは含まれない。信仰の自由とは、誰もが自由に信仰を選択できることではない。イスラム教徒が他の宗教に改宗することは許可されない。しかしながら、イスラム国家に住む非イスラム教徒は自由に彼らの宗教を維持・実践できる。こうした意味の信仰の自由が尊重されるので、非イスラム教徒が改宗を強制されることはない。

〇選挙

イスラム教の歴史には民主的選挙は存在しておらず、歴史上のイスラム国家は選挙を認めていない。 もし民主的選挙が優れた制度であれば、預言者ムハンマドと彼の級友は民主的な選挙を実践していたはず。民主的な選挙は不信仰者が生み出した制度であり5つの否定的な側面を有する。①統一を乱し、部族、政党、言語の違うグループ間での非難合戦を誘発する。 ②賢明な学者と無知な凶悪犯、男性と女性、信仰者と不信仰者の意見が投票において同価値であると見なすことはイスラムの教えから外れる。③シャリーアに基づく正当性が付与されないまま、個人資産と公金が無駄に支出される。④候補者は指導的地位を獲得するために、当選目当てで履行できないあるいは履行しない公約を掲げ人々を欺き自身への投票を呼びかける。⑤選挙は不正から免れない。当選を企図した賄賂によって有権者が誘惑されることで選挙結果に大きな影響を与える。イスラム国家においてシューラー(評議会)のメンバーは、多数決ではなくイスラム法の資格知識や特性によって選出される。

〇女性教育・社会参加

イスラムの歴史では女性が最高指導者の選出の議論に参加した事例は存在しない。また、女性が男性と肩を並べて、国家の運営、政治、戦闘での指揮に参加した事例もない。天性に基づく女性の仕事は出産と育児であり、育児に男性は関与してはいけない。男性は家の外で働き、産業農業商業や政府での公的な仕事に従事し、家族を養う糧を得るために日夜働く。こうしたあり方こそアッラーが男女それぞれに定めた天性に基づく制度であり、現在広く流布しているあり方は不信仰である。

女性に学ぶ義務が課されるのはイスラム教育だけである。近代教育は義務ではないが、学ぶことは可能である。しかしながら女性は、医療や仕立てなどの女性の天性に合った分野に関する教育のみ受けることが可能である。したがって女性が科学や幾何学などの分野の教育を受けることは許可されない。この前提の上で、誰が女性に教育し、どのような状況・手段で(外出を避けるべき)女性が学校・大学で教育を受けることが可能になるかの課題がある。女性教師だけが女生徒に教えることが可能である。もしそれが出来ない場合、女子学生と男性教師の間をカーテンで区切る必要がある。また、教育目的であっても、女性は男性親戚の同伴なしで、または3日超える日数を有する移動・外出は許可されない。

仕事は管理職と非管理職のポジションの2種類に分類される。女性は非管理職のポジションでのみ働くことがでる。ただし、女性が職場で働くのは、その職場で労働力が必要な場合に限定される。なお、女性が外で働く必要がある場合、基準を満たしたヒジャブの着用や男性がいない職場などの条件を考慮する必要がある。

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